企業研修で思うこと

昨年から今年にかけて、企業や団体からの研修の依頼が増えてきました。教育にかけるお金や時間を増やしていこうという傾向は、景気の回復も少しは影響しているのかと思いますが、採用してすぐ社員が辞めてしまうことについて、企業側も人材の育成を本気で考える時期になったということも大きな理由だと思います。

私自身、年間100回を超えるセミナーや研修の講師を担当していますが、新入社員の研修から経営幹部の方々まで多種多様なニーズや目的で研修の依頼を受け、目的に応じた研修プログラムを提供しお話させていただいています。

 特に最近の研修の特徴として、以前は新入社員であれば、ビジネスマナーや社会人としての心得などが中心でしたが、新人のうちからコミュニケーション力や組織における仕事の進め方、上司や管理職の方々については、どうしたら人材を育成できるか、組織を活性化するかなど、具体的な事例によるテーマを取り上げて、研修をする機会が増えてきました。上司や管理職の方々が、現代の若者の気質、考え方が十分に理解できないといった声も多く、現場で、少し声を上げて注意したら次の日から社員が出社しなくなった。上司の対応が部下にパワハラと勘違いされたなど、相手に注意をされる機会や叱られる経験が少なく、ネット社会で育ち、SNSがコミュニケーションの主流を占める現代の若者にとっては、相手を目の前にしてコミュニケーションを取ることの難しさは大きな問題となっていることは間違いありません。

 私は、研修というのは、こちらが(講師)が一方的に話すことではなく、自分の「思いや考え方」を相手に伝え、相手の考えや思いを受け止めることだと考えています。研修テーマに関する理論や実践を話すことはもちろんですが、私の研修では、その時間の多くをグループでの話し合いに費やします。一人ひとりが感じたこと、考えたことを話してもらい、お互いその考え方や価値観を共有し、自分の中に気づきを得られるような進め方をしています。他人の意見を受け止め、それをどう自分の考え方や行動に落とし込んでいくか、価値観や考え方が腑に落ちたとき、人は素直にそれを受入ることができるからです。

私が研修を通して感じることは、自分の意見は言える(発信)が、相手の意見をどう聴く(受け入れる)ことができるか、それを苦手と感ずる人が多くなっているということです。これは、若い社員だけなく、管理職や幹部の方々にも感じることです。

例えば、「きく」という漢字は、「聞く」(耳できく)、「訊く」(言葉、口できく)、「聴く」(耳と目と心できく)と、よく言われますが、普段の何気ない会話は別としても、職場においてお互いがコミュニケーションをとる必要があるとき、相手の言わんとすることを全身で「聴く」ことが必要だと思います。相手を否定することではなく、相手の目を見て、うなずきながら、自分の言葉で確認しながら、共感をもって相手に接すること。それは、良く思わない相手に対しては少し難しい対応かもしれません。しかし、相手は口だけで発信しているのではなく、その態度、表情など体で発信しているのです。心から相手を理解しようと意図して対応することが大切なことなのです。その当たり前の基本的な姿勢が、お互いの考え方や価値観を共有し、相手を受け入れることの大切さにつながると思います。仕事を通じて人は成長していきます。その一つひとつの仕事の意味、大切さを上司は部下にじっくりと理解させていくこと。話し合うことで時間はかかるかもしれませんが、情報や考え方の共有化を組織の中で相互に理解し合うことができたとき、組織は今以上に力を発揮します。心が揃うことで組織力が高まり、お互いが一つの目標に向かうことができたとき、コミュニケーションの問題は解決していくのだと思います。

戸谷一彦(平成26年8月3日)

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